頭皮への鍼刺激が睡眠を誘発

さて、頭部には、特別なツボもあわせると、70個あまりのツボが存在します。鍼の本場中国では、頭針という療法があり、脳卒中の後遺症など様々な病気の治療に用いられています。

当院でも、これまで様々な症状の患者さんに、頭皮鍼(頭鍼)を行ってきました。特に眼精疲労や顎関節症、慢性頭痛、自律神経失調症の症状が強い方は、非常に頭が凝っている、むくんでいる場合が少なくありません。

ある時、長年ひどい不眠症を患っている患者さんが、眼精疲労治療の追加で頭皮鍼(頭鍼)を受けました。その結果、患者さんから「5年ぶりに深い眠りにつくことができました。ずっと眠れないことが不安でしたが、頭皮鍼をキッカケに眠れる自信を持つことができました。」と喜びの声を頂いたことがあります。

その患者さんの経験からも、頭皮鍼(頭鍼)は「睡眠の改善に有効である」と確信し、以来多くの不眠症・睡眠障害で悩む患者を対象に頭皮鍼を行って参りました。

頭皮の構造

頭皮は5mm程の皮膚でできており、その下には薄く伸びた筋肉の層が頭蓋骨を覆っています。そして、頭皮・頭筋膜には血管や神経がメッシュ状に張り巡らされています。尚、脳は強固で厚い頭蓋骨に完全に覆われているので、鍼先が脳に到達することは全くなく、頭皮鍼(頭鍼)は安全な施術と言えます。

頭筋・頭筋膜に生じる歪み

頭部において、頭皮の前方・側方は、表情筋や咬筋につながています。また、頭皮の後方は、首の筋肉につながっています。頭皮は、顔や首、それぞれの筋肉を連動させるアンカー(碇)の役割を果たしていると言えます。

人間の筋肉は、全体が筋膜で緩やかにつながっています。これを筋膜(ファシア)と言いますが、局所の筋肉のコリが歪み(ひずみ)となって、遠く離れた筋肉にもテンションが掛かってしまいます。主に上半身ですが、どこかに不具合が生じると、最終的に頭皮(頭皮筋膜)にストレス(テンション)がかかることになります。

皆様も、首肩・目を酷使して、孫悟空の輪っかのような頭重感が、頭に生じた経験があるかと思います。

先ほども述べたように、頭頂部(帽状腱膜)は身体全体の筋肉の始発地点とも、終着地点ともなっています。全身の筋肉の歪みが調整される結果、頭皮筋膜には凹凸(しわ)が生じ、部分的な頭皮の血流障害が発生します。これが、頭皮のこりや浮腫みの原因です。

頭皮のコリは自律神経にも影響

頭皮に生じたコリや浮腫み(疲労物質の体積)は、頭皮に張り巡らされた感覚神経を刺激しますので、脳に不調のシグナルが伝播し続け、頭痛、頭重感、集中力の欠如、不眠、自律神経の失調、または脱毛症や薄毛の原因にもなります。これらは、もちろん睡眠の質の低下、不眠症、睡眠障害という形で現れる場合もあります。

頭皮を刺激し頭皮筋膜を緩める

頭皮に蓄積したコリや浮腫みを解消すると、全身の筋緊張(テンション)が軽減し、脳に伝わる不快な感覚刺激も軽減します。頭に鍼を刺しただけで、首や肩の筋肉が緩むことがありますが、これを頭皮・筋膜リリース(ファシアリリース)と言い、頭皮鍼が単に、頭のコリ、浮腫みの解消に局限した治療ではないことの根拠になります。

頭皮鍼(頭鍼)の効果

頭皮鍼(頭鍼)は、脳血流の促進、身体の筋緊張緩和、血圧、心拍、呼吸、胃腸の働きなど、自律神経の調整にも働きます。特に交感神経の興奮を抑え、副交感神経の立ち上がりをスムーズにする作用があります。これらが、結果的に、睡眠の質を高めるのです。