Cさん(30代後半)

原因不明の目の奥の痛み、全身の筋肉や関節の痛みを主訴に当院を受診。頭痛も酷く、安定剤のほかに、ほぼ毎日鎮痛薬を服用しているとのことでした。

育児のストレスで、全身に痛みを感じるようになり、医師からは筋線維痛症と診断を受けたとのことでした。仕事に復帰したものの、育児と仕事の板挟みで、精神的にも追い込まれていたそうです。

安定剤系の薬を飲み、体の痛みはある程度緩和したそうですが、目の奥の痛みと頭痛は改善せず、日常生活に支障をきたしている状態でした。

出産後は、ホルモンバランスの変化で眼精疲労になりやすい状態が続きます。そのような状態で仕事に復帰し、目を酷使してしまうと、ストレスを契機に難治性の眼精疲労に移行してしまう場合があります。

出産後・子育て中の女性こそ、眼精疲労のケアが大切です。幸いCさんは3か月の治療期間で、ほぼ症状は消失しました。

Dさん(50代前半)

残業を毎月100時間近くされている会社役員の方です。医師からは「もうこれ以上、精神安定剤の量は増やせない」と言われ、目の痛みと全身疲労を主訴に当院を受診。両瞼が瞳孔領域までかかる眼瞼下垂の症状は深刻でした。

2週1回のペースで3年以上通われています。90分の治療時間中は、鍼を打たれながらもずっと熟睡しているという状態でしたが、ご本人は「この90分は一日まるまるの休息に匹敵する。」とおっしゃっていました。仕事のピークも乗り越えたようで、最近では安定剤も、かなり減量できています。

難治性の眼精疲労への取り組み

以上のように、常に目を開けているのが辛い、閉じていても目がジンジン痛む、目の奥に激痛が走る、光が眩しくて家では照明を暗くして過ごしている。目の不調で休職や休学している。外出するのが億劫で家に引きこもっている。 といった最重度の眼精疲労の治療にも取り組んでいます。

目に重い病気を抱える方から、検査では異常がないと言われている方まで、現代医学では治療方法がないと医師から言われているような場合が少なくありません。

もちろん鍼治療が万能というわけではありませんので、当院での治療も一進一退となりますし、症状の改善には長期間の治療が必要となる場合があります。ここでは、当院が治療に取り組んでいる難治性の眼精疲労について解説します。

◆原因不明の慢性眼疼痛

近年ではモノアミンなどの脳内物質が、身体の痛みに対する感覚抑制に関与しているという研究が進んでいます。これは下降性鎮痛機構と呼ばれ、原因不明の全身性の痛みを生じる筋線維痛症などに関連性があると言われています。一般的には、心因性疼痛や神経性疼痛として、主に薬物療法や鍼灸治療の適応となります。

当院では、多くの眼精疲労の患者さんを治療する中で、原因不明の慢性疼痛を抱えた方で、特に目に症状が強くでる方が間々おります。症状は様々ですが、

(1)強い精神的なストレスを受けたエピソードを、現在または過去に経験している。

(2)パソコンやテレビのような光を発する画面を見ると目の痛みが増強する。

(3)自律神経失調症状を伴っている。

などの共通項が見受けられます。

また、鎮痛薬や安定剤による治療のみでは目の痛みが緩和しがたい例や、逆に薬の作用でかえって、目の調子が悪くなっている場合も少なくありません。多くの患者さんは、治療に行き詰まり、さらなるストレスを受けるという悪循環を伴っています。

眼精疲労と中枢神経(脳)

重度の眼精疲労を「脳」との関連性において治療を行う場合があります。これは、より高次である大脳新皮質や大脳基底核、脳幹レベルの影響により、眼精疲労が増幅されている場合です。先に述べた、繊維筋痛症や子宮頸がんワクチンの副作用など、当院でも治療に取り組んでおります。いずれも原因不明とされていますので、これらの分野において世界レベルで研究が進むことを願っています。