私達が鍼灸院で治療をする際、患者さんに「脳脊髄液(のうせきずいえき)」について説明する機会があります。脳脊髄液という言葉、初めて聞いたという方も少なくないと思います。

当院は、「脳脊髄液減少症」の患者さんを多く治療してきました。脳脊髄液減少や脳脊髄液環流障害は、慢性頭痛、慢性疲労症候群、めまい、眼精疲労(視神経にも脳脊髄液液が環流)、自律神経失調症を引き起こすことを経験しています。

実は、この脳脊髄液が脳内老廃物を洗浄する役割を担っていることが様々な研究からわかってきました。では、この脳脊髄液とは、どのようなものなのでしょうか?

1、脳脊髄液は脳や脊髄を日常的な衝撃から保護する。脳脊髄液は、良くスーパーなどで売られている「豆腐のパッケージに満たされた水」に例えられます。柔らかい脳組織は、硬い頭蓋骨で密閉された頭蓋内に、脳脊髄液に浸る感じで収まっています。例えば頭をぶつけた時、脳脊髄液が衝撃を吸収することで、脳へのダメージを軽減できます。

2、脳脊髄液は、脳の代謝産物(老廃物)を排出、洗浄する。脳脊髄液は、脳の深部にある脳室の脈絡叢で血液を原料として生成され、1日500ml程度、分泌されます。分泌された脳脊髄液は、脳室という脳の隙間を経て、一部の支流は眼球の視神経をコーディングするクモ膜下腔を流れ、本流は背骨の中を通る脊髄を包む硬膜、くも膜下腔を流れます。脳脊髄液は最終的に、クモ膜顆粒を通って静脈内に吸収されます。

脳内での脳脊髄液環流は、睡眠時に膨大することがわかっています。これを、グリンパティックシステムと呼びます。次に睡眠時、脳性髄液による脳内老廃物の洗浄作用について解説します。

脳内老廃物の洗浄作用

脳組織は密閉された頭蓋内にパンパンに詰まっています。特に日中は脳がアクティブな活動状態にあり、神経ネットワークの構築が優先されるため、脳のグリア細胞達は突起を多方向に伸ばして細胞同士の結びつきを強めます。そのため、脳脊髄液が脳の深部、細部の隅々まで流れるスペースは十分ではありません。

しかし、人が睡眠状態に入ると、脳もスリープモード、メンテナンスモードに移行し、脳はアクティブな活動を休止します。睡眠中、グリア細胞達は突起を縮めるので細胞同士の結びつきは弱まり、脳内に僅かな間隙(スペース)が生まれます。その隙間をぬって脳組織の深部まで脳脊髄液が流れ込み、アミロイドβや老廃物を洗い流します。

この脳脊髄液による、脳老廃物の洗い流し作用は、寝ている間に盛んになることが最新の研究でわかっています。