眼瞼下垂や眼瞼痙攣で悩む患者さんの治療に取り組み始めたとき、まず調べたのが「人間の瞼の構造」(後述)でした。

特に、上眼瞼挙筋が眼球後方から、瞼を「てこの原理」で引き上げる構造に衝撃と感動を覚えたのが10年前です。

ごく限られたスペースに、合理的な形でコンパクトに収納されている。

それが人体です。だから、医学は面白いのです。

ここでは、上眼瞼挙筋を中心に、瞼について解説します。

瞼に生じる症状や病気

眼精疲労による瞼重感をはじめ、眼瞼下垂、眼瞼痙攣、顔面麻痺、重症筋無力症、動眼神経麻痺などは、いずれも瞼に症状が起こります。

また、瞼の不具合が、ムチ打ち、頸部外傷、肺尖部腫瘍など、離れた部位または、全身的な病気が原因である場合もあります。

まぶたが不具合を起こす原因を検索し、まぶたの働きを正常化させるには、どのようにアプローチすれば良いのでしょうか。

瞼に関する美容の悩み

女性も男性も、瞼に関する美容トラブルに、多くの方が悩まされているものと思います。目がパッチリと開いていると、明瞭快活な印象を周囲に与えます。

一方、さがり瞼目の下のクマは、疲れている、悩んでいる、眠そう、機嫌が悪そう、などのン勝を周囲に与えてしまう場合があります。

また、加齢と伴に気になってくるのが、目の下のたるみみけんのしわ等です。これらは、目の周りの筋肉の疲労や衰え、肌のハリ、脂肪減少などが関与します。

さらに近年では、美容整形や美容施術による不具合などの問題も増えていると思います。

瞼と眼精疲労(瞼の3構造)

私たちは1日に1万5千回~2万回の瞬きを「まばたき」を行っています。瞼は、閉じる際に「眼輪筋」が作用し、開ける際に「上眼瞼挙筋」が作用します。

また、より目を大きく開ける際は「ミューラー筋」が作用します。その他に「前頭筋」「側頭筋」「後頭下筋」などの補助筋も作用します。

物を集中して見るためには、瞼をしっかりと開け続ける必要があります。疲れていたり、眠いのを我慢して、瞼を一生懸命に開けようとすると、当然それらの筋肉は疲労します。

では、目を見開くための筋肉は、どこから、どこへつながっているのでしょか。

上瞼(うわまぶた)は、上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)が収縮することで挙上します。目を開ける動作を考えると、筋肉は「おでこ」の方につながっていると思われがちですが、違います。

瞼を開くための上眼瞼挙筋は、目の奥へと長く伸びていき、目を動かす筋肉と伴に視神経の鞘(さや)に接着されています。つまり、上眼瞼挙筋の起止は総腱輪(そうけんりん)です。

上眼瞼挙筋図-眼球断面図

上眼瞼挙筋と眼球の画像

これにより、瞼を吊り上げるとい言うよりも、「てこの原理」で後方から引っ張り挙げるという作用が可能となるのです。

瞼を持ち上げるには、それなりの力量が必要なので、理にかなった構造だと言えます。

しかし、この構造ゆえに、目を酷使すると、眉間から眼球上部に沿って、目の奥が痛くなるという症状を来します。

また、力学的にも頭の付け根(ぼんのくぼ)あたりで、上眼瞼挙筋の収縮を支持しますので、後頭部や首の後ろが凝ってしまいます。ひどいと、瞼を持ち上げるたびに、後頭部がズキンと痛むケースも生じます。

画像2


瞼を挙げる筋肉には、メインの上眼瞼挙筋の他、ミュラー筋、前頭筋などがあります。瞼の先には、軟骨で出来た瞼板(けんばん)が付いており、内部には「涙の成分の一つである油分」を分泌するマイボーム腺が備わっています。

瞼板は、ファスナーのように、上瞼と下瞼が、ジッパーでピッタリと閉じるようになっています。

その瞼板に付着し、瞼をより上方へと引っ張り挙げるベクトルを生み出すのがミュラー筋(後述)です。

ミュラー筋は交感神経優位で活発に働きます。そのため、交感神経が遮断されると、瞼が微妙に下がった状態となります。

さらに、注視(集中して物を見る)を行うためには、目を閉じる眼輪筋と目を開ける挙筋+ミュラー筋が同時に収縮した状態となり、その持続にはエネルギーを消費します。

瞼の構造、ミューラー筋

目を、より大きく開くために働くミューラー筋

よく、「目ヂカラ」という言葉を聞きます。映画やドラマやアニメでは、主人公が逆境から這い上がり、起死回生の一手を打つときに、主人公の大きく見開いた目がクローズアップされるシーンを良く見かけます。

この時、ガンガンに働いているのが上瞼のミューラー筋です。交感神経線維が接続していますので、身体を鼓舞する時や、高揚している時、緊張した時、動揺した時、怒った時などに、積極的に反応します。

また、首や肩の筋緊張(筋収縮)とも連動していますので、肩に力が入ると、瞼にも力が入ります。

尚、交感神経鼓舞作用(火事場の馬鹿力)を発揮する際には、目を大きく見開く、また、歯を強くかみしめる(歯の歯根膜には交感神経線維が接続)などが、トリガーとなります。

上記は、極端な例ですが、瞼は眼輪筋、眼瞼挙筋、ミューラー筋の三者が協調しながら、一日2万回にも及ぶ瞬目、感情などの精神状態を伝えるアイ・ラングエッジ、まぶしい光を防ぐ細目など、日常的にフル活動しています。

眼輪筋について

つづく