早いもので、ドライアイと付き合って40年が経とうとしています。重症ドライアイで、涙液分泌はゼロ、涙が一滴もでない私でも、こうやって日々仕事が出来ていることを考えると、鍼の力は素晴らしいと思います。

当院のホームページは症例ブログとして、様々な治療例を掲載しておりますが、今回は院長小宮のドライアイに関するエピソードです。

私の病気はスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)です。SJSはシェーグレン症候群とならび、重症なドライアイを来す疾患の一つです。他にも、骨髄移植後GVHDや眼類天疱瘡などがあり、いずれも重症なドライアイを来すことがあります、

SJSは皮膚粘膜の広範囲に急性炎症を引き起こす全身疾患です。SJSは、角膜や結膜、涙腺にもダメージを受ける場合があります。急性期では結膜の炎症で「偽膜」を生じ、角結膜上の盃細胞(ムチン分泌腺)が一部消失し、角膜輪部の幹細胞(ステムセル)が障害されます。同時に、涙腺にも炎症が起きる場合があり、涙腺の機能低下により涙液分泌が減少します。重篤な場合は、眼瞼のマイボーム腺をも消失し、睫毛乱生を生じさせます。

症状は様々ですが、重症な場合は、涙腺からの水溶性涙液、粘膜上皮からのムチン、マイボーム腺からの油分が、いずれも減少し、乾燥性・刺激性の痛みが続きます。

私は、角膜が外気に触れると激痛なので、度数の入っていないソフトコンタクトレンズを眼表面保護の為に着用し、人工涙液を3~10分に1回点眼しています。夜寝ている間は目が「カラカラ」に乾いてしまうので、眼軟膏を目に入れ、メパッチという透明なシールを瞼に張り付けて、さらにその上にタオルやアイマスクを付けて、目が乾かないようにしています。常に、スチーム式加湿器を付けて、湿度を高くした家・職場で生活しています。

涙が出ないため容易に感染を起こしてしまいます。また、角膜の細胞もはがれやすく、少しの刺激で角膜潰瘍にも良くなります。

そのため、人工涙液の他に、炎症を抑えるステロイド点眼、殺菌のための抗生物質点眼、ムチン層を補うムコスタやジクアス、ヒアレインなどを頻繁に点眼しています。

特に、人工涙液は目の表面を一時的に潤すことができますが、涙の代わりにはならないと、身をもって実感しております。

涙の98%は水分ですが、そのほかに眼表面の恒常性に欠かせない様々な成分が涙には含まれています。角膜は他の粘膜組織とは異なり、透明性を維持するため血管がありません。角膜への栄養供給は涙が担っているのです。

涙の源は「血液」

涙液は、目の上外側にある主涙腺で「血液」を源に生成されます。涙の主成分は「血清」です。血清とは、血液から赤血球や血小板などの血球成分を除いた黄色透明な成分のことです。

涙腺で血液から生成された血清成分は涙となって、眼表面を栄養・殺菌します。実際に涙には、ラクトフェリンなどの多機能蛋白やビタミンAなどの細胞活性化因子、また抗菌作用のあるリゾチームやIgA(免疫グロブリン)などを含んでいます。

また、涙は角結膜上のゴブレット細胞で生成されたムチンと、瞼のマイボーム腺から分泌される油分と混ざり、蒸発しにくい良質の涙となり、角結膜を保護してくれます。

日本では約20年前より、一部の眼科医療機関で「自己血清点眼」によるドライアイの治療が試みられてきました。自己血清点眼は、採血した自らの血液を遠心分離器で「血清成分」のみを抽出し、それを点眼液として目に点眼するという治療法です。自分の血液から作った目薬なので、人工涙液とは異なり、天然の栄養分や抗菌作用のあるタンパク質を含んでいるとされています。

私も、この自己血清点眼を使用するようになってから、角膜の状態も若干の改善が得られています。ただし、この治療を行ってい眼科医療機関が全国的に少ないのと、生ものなので管理が大変といった課題もあります。

不思議なことですが、私は涙液分泌量が0%ですが、目が潤う・目が乾くという感覚差があります。特に、生理前は目がより乾く感じがしますし、寝不足や疲労によっても乾く感覚が増強します。涙液分泌はホルモン分泌や自律神経とも関係しているは周知の事実です。

逆に、背中への鍼治療を受けたり、目の周りに鍼をすることで、涙が出るような感覚があり、実際に目薬を使用する頻度も減ります。背中への鍼は、自律神経に作用し副交感神経を優位にします。また、目の周りの鍼は、涙腺への血流を増加させることで涙液分泌を促す作用があります。私は鍼治療を受けると、一時的ですが涙が出るようになるのです。これは医学的には説明のできない事象ですが、自らが体験していることです。

<参考に>
交感神経優位(緊張)
→涙腺血流減少

副交感神経優位(リラックス)
→涙腺血流増加

つづく