目の表面を保護し栄養を与える涙は、水分・油分・ムチンという3つの成分が合わさった粘質性のある液体です。涙は、いずれの成分が不足しても量や質が低下します。近年、マイボーム腺機能不全型ドライアイ(Meibomian Gland Dysfunction)の存在が注目されています。
涙の分泌は、PC作業やスマホ時の瞬きの減少、眼精疲労、乾燥した環境、シックハウスなどの化学物質への慢性暴露、過度なストレスや自律神経失調症、安定剤や向精神薬の抗コリン作用でも減少することがあります。
涙の構成(水分・油分・ムチン)
◆水分(水層)
水分(水層)は、涙腺から分泌される涙の源(みなもと)です。水分は主涙腺と副涙腺で、血液を原料にして作られます。涙は95%が涙腺で生成される水分からなっています。涙腺から作られる涙の成分には、水分、電解質(Na Ca HCO3 CL)、タンパク質、ラクトフェリン、リゾチーム、分泌型ムチン、IgA、グロブリン、細胞活性因子などが含まれています。
◆油分
油分は、瞼の淵にあるマイボーム腺から分泌され、涙の蒸発を抑える役割があります。眼科で行うBUT(Break Up Time)という検査は「瞬きを10秒間しない状態で涙がどれぐらい蒸発するか」を調べる検査です。最近では、マイボーム腺機能不全型ドライアイ(Meibomian Gland Dysfunction) をMGDと総称し、新たな治療法が試みられています。
◆ムチン
ムチンは、角結膜の杯細胞(ゴブレット細胞)から分泌される分泌型ムチン、及び涙を浸透ささせる土台となる膜型ムチンから成り、涙の粘性と粘膜を保護する役割があります。以前は、涙は油層、水層、ムチン層の3層に分かれているという認識でしたが、分泌型ムチンが水層と混ざりあっており、ムチン層と水層の境界は明確ではないということが分かっています。
涙腺から分泌作用
涙腺は唾液腺と同様に、常に一定量が分泌されており、これを基礎分泌と呼びます。、また、眼表面や身体が痛みなどの刺激を受けた時に反射的に分泌される反射性分泌、悲しい・嬉しいなどの感情によって分泌るされる情動性分泌などがあり、状態によって涙液の質と量が変化します。さらに、涙腺は自律神経の影響を受けますので、交感神経・副交感神経のバランスによっても排出量が変化します。
涙腺の構造(涙を作る細胞達)
涙腺は、耳側の上瞼奥にあります。スポンジのような形をしており、内部には房細胞と導腺細胞を筋上皮細胞が包むような構造をした多数の小葉が重なり合っています。まるで植物の葉が密集しているかのような形状をしています。
涙腺に接続する神経
涙腺には3つの神経によって分泌量が制御されています。
涙腺神経は三叉神経第1枝である眼神経の枝の一つです。涙腺神経は、他の三叉神経繊維と共鳴して涙の反射性分泌を促します。その他、動眼神経から分岐した副交感神経線維。頚部の交感神経節から伸びた交感神経線維が接続しています。
基礎分泌←交感神経と副交感神経のバランス
情動性分泌←心因性の副交感神経刺激
反射性分泌←三叉神経
涙腺に接続する血管
内頚動脈→眼動脈→涙腺動脈
涙腺動脈(涙の原料を供給)
涙腺静脈
以下は、非常に鍼灸治療にとって興味深いルートですが、外頸動脈の枝である浅側頭動脈、眼窩下動脈は内頸動脈系の涙腺動脈と合流して血管網を形成しています。これは、四白を刺激することで涙腺動脈への血流を誘導することができる可能性を示唆しています。また、目の下をマッサージしたり、温めたりすることでも涙腺への血流を増進できるかもしれません。
涙腺からの涙液排出トリガー
涙は涙腺で生成され一定量を貯蓄しています。涙腺が刺激を受けると涙液分泌が促されます。その様は、物理的な要因と心理的な要因、また化学的な要因に分かれます。
第一に物理的な刺激で最も重要なのが目瞬き(まばたき)です。瞼の圧力によって涙は排出されます。また、ストレスや緊張、集中なので交感神経が高ぶると涙の分泌は減少し、逆にリラックスした状態では涙液分泌は促進されます。
自律神経による涙液分泌量の変化は、血流抑制(交感神経)と血流増進(副交感神経)も関与します。
最近の研究では、涙腺細胞膜における水チャネルのゲートを開くタンパク質や電解質の存在も明らかになっています。
涙液量を増やす目的
自分の涙は、ダメージを受け、疲弊した目をリカバーする自然治癒力の賜物です。涙で目が潤えば、目の自然治癒は促進します。自分の涙には栄養を豊富に含み、優れた免疫作用を有しています。つまり、涙は目にとって最良の目薬と言えます。涙を増やし、涙の力を借りることで、目の疲労を取り除くことが出来ます。
涙液分泌量を増やす方法
どのよにすれば十分な涙が出るようになるのでしょうか。涙液分泌を促進するためには、涙腺を活性化する必要があります。その方法は主に3つです。
・神経を刺激して涙腺を鼓舞
・涙腺への血流促進
・自律神経失調の調整
一時的ですが短期間で涙の分泌を促進するには、涙腺に刺激を与えるのが重要です。涙腺は三叉神経領域に生じた刺激に反応して涙液を反射的に分泌します。目にゴミが入った時などです。角膜に対する刺激だけでなく、三叉神経が分布する領域であれば反射を起こさせることは容易です。当然、目の周りのツボに鍼で刺激を与えると涙液の分泌は増加します。
また、涙を分泌する涙腺に血液を送ることで涙液分泌は促進されます。首や後頭部、目の周りに鍼をすることで、頸動脈・眼動脈などの血流を増進することで、涙腺血流も増幅させることが可能です。
そして涙腺を活動させるには、副交感神経による働きかけが必要です。逆に、涙が出にくいのは、身体の血行が悪く、自律神経の調整が上手くいっていない可能性があります。そのため、私たちは、涙腺を活性化する副交感神経の働きに着目し、自律神経の調整に重点を置いた治療を行っています。