こちらは眼科鍼灸ノート@オアシスの一部です。当ページは、自らが鍼灸師として、また当院スタッフが、眼科医学を学ぶために作成した学習ノートです。

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はじめに、目の仕組み

目は感覚器の一つです。感覚器には、聴覚、臭覚、味覚、触感などがありますが、そのなかでも視覚から得られる情報は膨大で、脳の8~9割以上(新しいい教科書では9割という表記もあります。)が視覚と関連した情報処理を行っているとも言われています。

鍼灸の学校では、視機能や眼科医療に関する授業が十分な程ありません。また、目に関する興味や知識、治療経験が業界全体を通して少ないという印象を受けています。

そこで、以下の内容は、鍼灸学校で使用される一般的な「解剖学の教科書」また「標準眼科学 第14版」をベースに、眼科の基礎解剖学について解説していきたいと思います。また、私が現在まとめている「眼病・眼精疲労に対する鍼灸マッサージ・スタートアップ講座(準備中)」でも必要となる基礎知識です。

まずは、眼球を構成する各組織の名称と位置関係を学習することが大切です。

視覚器の概要

眼窩を含む眼球断面図(眼科解剖学的イラスト画像)

眼球は光(視覚刺激)を受容する器官で、眼球とその付属器官(眼瞼・涙器・眼筋)からなります。眼球は、眼窩(がんか)という骨の窪みに脂肪に包まれた形で収納されています。

また、眼球は、強靭な視神経5つの眼外筋(下斜筋以外の眼外筋)、及び上眼瞼挙筋が眼球の奥で「総腱輪」(そうけんりん)によって結束され、固定されています。

眼球の大きさは成人で約2.5cm、重量は7.5g、眼窩の奥行きは約4cmです(尚、卓球のピンポン玉の直径は4cm)。

成人男性の眼窩CTスキャン画像 前頭切痕お眼窩上孔の画像

上図は、成人男性の眼窩CTスキャン画像です。鍼灸師であれば、前頭切痕と眼窩上孔(攅竹)や眼窩下孔(四白)など、眼窩縁部の触診が出来るようになりたいところです。

目の奥がズキズキ痛む女性のイラスト


例えば、眼精疲労の患者さんが、目の奥が、痛いと言った場合、目の奥は、どのような構造か?を熟知していれば、治療戦略を立てやすいと思います。

また、視神経炎の患者さんが目を動かすと、目の奥がズキンと痛むという症状を訴えることがありますが、これも眼窩深部の解剖学的特徴を知っていれば理解できる症状です。

眼球と脳の視覚野(しかくや)

脳と眼球の解剖図CG(視覚野や外側膝状体

最終的に、光は角膜や水晶体を透過する際に屈折し、網膜(1億個以上の視細胞)に投影されます。網膜の視細胞は光(光子)を感受し、電気信号に変換します。

視交叉の医学イラスト

光の電気信号は、視神経という神経の束を伝導します。視神経は、視神経管を通り、視交叉を行い、視床・外側膝状体を経て、大脳後頭葉の視覚野(視中枢、第17野 鳥距溝)に接続します。眼は高性能なデジタルカメラによく例えられます。

眼球の構成

眼球の内部解剖図(網膜・ブドウ膜・強膜)

眼球の壁は3層からなり、その内部は水晶体により前後に二分されます。角膜の頂点前極み呼び、強膜後方中心部を後極と呼び、前極と後極を結ぶ直線を眼軸と言います。眼軸長(眼軸の長さ)は成人で約24mmとされています。近視は、この眼軸長が伸長することで、眼球がラクビーボール状に変形することで進行します。


眼科では、角膜外来、緑内障外来、ブドウ膜外来、網膜・硝子体外来など、専門が細分化されています。

強膜(きょうまく)外壁の役割

眼球のうち、角膜を除く5/6を覆う外側の膜が強膜です(眼球=白色というイメージの元)。滑らかで強靭な繊維性の結合組織から成っています。血管が少ないため白色で、その後部は視神経を包む膜に移行しています。家でいう「外壁」の部分です。

角膜と結膜と強膜の位置関係

角膜は、瞳孔(黒目)の前面に位置する、透明な無血管組織です。一方、私たちが白目と呼ぶ部分は結膜と強膜の二重構造になっています。上層部が透明な結膜(表層)で、下層部が白色の強膜(深層)です。

結膜も強膜も、毛細血管が豊富にあるため、血管が怒張すると、いわゆる充血目となります。二重構造になっているので、結膜血管が怒張している場合は結膜炎。強膜の血管が怒張している場合は、強膜炎となります。強膜炎は膠原病由来の場合があり、自己免疫疾患との関連性も重要となります。

角膜(かくまく)光を取りれる窓

角膜は、強膜が唯一到達していない透明な組織で、家でいう「光を取り入れる窓」にあたり、外側から角膜上皮、ボーマン層、角膜実質、基底膜、角膜内皮による5層構造となっています。

角膜の構造イラスト

角膜に関しては、LASIKなどの屈折矯手術を受けている患者さんのケアなどが臨床上重要です。また、ソフトコンタクトレンズの長期使用による酸素不足によって起こる角膜内皮細胞減少症なども理解する必要があると思います。角膜に関しては、別項で詳しく解説します。

ぶどう膜(中壁)

ぶどう膜の解剖学的特徴は非常に重要なのですが、スルーされてしまっていて、ぶどう膜って何という鍼灸師も多いのではないでしょうか。

まず、ぶどう膜というのは、眼壁の中層にあたり、前方から虹彩毛様体脈絡膜の三つを合わせた総称です。眼科では、ぶどう膜外来など  の専門外来があります。

ブドウ膜の特徴は二つあります。一つは、眼球内部を暗室状態(映画館状態)にすることです。角膜から入った光を網膜に効率よく収束させるためには、眼球内が暗室である必要があります。


そのため、ブドウ膜にはメラニンという黒色の色素が多く含まれています。ちなみに原田病は、このメラニン色素が炎症を起こす自己免疫疾患ですが、メラニン色素の多い組織である目、耳、髄膜、皮膚、毛髪などに多発的な炎症を生じることがあります。

そして、二つ目は、眼球に張り巡らされている神経や血管の経路としての役割です。ブドウ膜は、家でいう外壁と内壁の中間部分で、家だと電気配線や配管などを通すルートです。

ぶどう膜 脈絡膜の解剖図イラスト


人間のブドウ膜も同様で、目の奥にある眼動脈から分岐した血管網が、ブドウ膜を通って眼球全体に栄養や酸素を供給しています。また、眼圧をコントロールする房水循環においても、房水生産、及び老廃物や水分吸収はブドウ膜が担っています。

網膜(もうまく)内壁の役割

眼球壁の最内部は、網膜と呼ばれ、光の刺激を神経の興奮(電気信号)に変えて、視神経から脳へ伝える部分です。網膜は昔のカメラの「フィルム」に例えられます。

網膜の断層構造画像イラスト

基本的に、網膜の視細胞が損傷した場合、視機能を回復するのは難しいと言われていますので、非常に大事な組織です。網膜疾患では、網膜剥離、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症、黄斑変性症などが代表的です。

視神経乳頭(ししんけいにゅとう)

網膜には視神経の出口があり、眼底写真では、白いお椀のように窪んで見える部分があります。ここを視神経乳頭と言います。この場所には視細胞が無い、いわゆる盲点です。

眼圧の影響を受けやすい部位なので、視神経乳頭の陥凹が強い場合は緑内障の可能性があり、眼科で「視神経乳頭陥凹、緑内障の疑い」という診断となります。例えるなら、風船の息を吹き込む部分です。

視神経乳頭、眼底写真イラスト

黄斑部(おうはんぶ)

視神経乳頭の約4㎜外側に褐色に丸くなった部分(直径約2mm)があり、黄斑部と呼びます。黄斑部の中央は窪んでおり、ここを中心窩と呼びます。視細胞のうちの錐体細胞が密集しており、「最も物がよく見える」部分です。黄斑変性症では、視界の中心部分が見えにくくなったり、ゆがんで見えたりします。

OCTによる黄斑部断層画像イラスト

尚、網膜の構造に関しては、別項で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。

眼球内の水分(房水循環)

眼球内は水分で満たされ、一定の圧が保たれています。その水分の内容は、眼房水(サラサラした水分)と硝子体(どろっとしたゲル状)に分かれます。それぞれの機能を見ていきましょう。

眼房水(がんぼうすい)

角膜と虹彩の空間を前眼房(ぜんがんぼう)、虹彩と水晶体の空間を後眼房(こうばんごう)といい、いずれも眼房水で満たされています。眼房水は毛様体上皮から分泌され、後眼房から虹彩をへて前眼房へと流れ、角膜と強膜の境界部にある強膜静脈洞(シュレム管)から眼静脈へ吸収されます。

眼房水の分泌と吸収のバランスにより眼圧が正常(10mmHg~20mmHg)に保たれています。このバランスが崩れると眼圧が上昇するなどして、緑内障のリスクが高まります。

緑内障の治療は、この眼房水の分泌と吸収を点眼薬によってコントロールするのが標準治療となっています。

房水循環と眼圧、緑内障のイラスト

眼房水のもう一つの役割

眼房水は眼圧を一定に保つほかに、眼球組織に栄養を供給するという大切な役割を担っています。特に水晶体や角膜は無血管組織ですので眼房水からの栄養供給に大きく依存しています。

角膜細胞は涙液からの栄養供給を受けると同時に、角膜内皮細胞が吸い上げる眼房水からも供給を受けています。一方で、この角膜内皮細胞の数が減少してしまうと、角膜内の水分代謝が上手くできず角膜浮腫を起こしやすくなります。

硝子体(しょうしたい)

水晶体と網膜の間にある無色透明なゼリー状の物質で、大部分は水分からできています。眼球の後ろ3/5を占め、眼球の内圧を一定に保っています。鍼灸の臨床上においては、飛蚊症(ひぶんしょう)後部硝子剥離黄斑前膜、また硝子体出血や硝子体混濁という症状について知っておく必要があります。

ピント調整

虹彩、水晶体、チン小帯、毛様体筋図CGイラスト

水晶体

水晶体は直径約10mmの両面が凸レンズ様の物質で、特殊な繊維状の細胞で出来ています。柔らかく弾力性に富んでいます。水晶体は、やや黄色がかった透明色で、無血管の組織です。

網膜に有害な紫外線をカットしています。水晶体が混濁すると、光の透過率が悪くなり、視力が低下します。これを白内障と呼びます。また、弾力性が低下するとピンと調節力が落ち、いわゆる老眼となります。水晶体については、別項に詳しく解説しています。

毛様体

脈絡膜の前方に続く海綿様に肥厚した部分が毛様体です。毛様体から内方に伸びる小さな糸のような繊維を毛様体小帯(チン小帯)と呼び、水晶体は一定のテンションを保ちながら支持されています。

毛様体の中には平滑筋である毛様体筋があり、水晶体の厚みを調整し、焦点距離を変化させます。(オートフォーカス機能、自動ピンと調節機能)。眼精疲労は、毛様体筋の疲労が原因の一つと言われています。

毛様体筋の組織図

虹彩(こうさい)光の量を調節するカーテン

毛様体から起こり、水晶体の前方でこれを周囲から縁どるように存在します。カメラの絞りにあたるもので、中心の空洞部分は瞳孔(直径3~6mm)と呼ばれます。

虹彩は、神経、毛管、色素細胞に富んでいます。虹彩は、内側を輪走する瞳孔括約筋(副交感神経)があり、外側には放射状に走る瞳孔散大筋(交感神経)から成っています。

この2種類の平滑筋が、網膜に入る光の量を調整しています。虹彩は、角膜という窓に掛かる暗幕のカーテンです。

縮瞳に関係する瞳孔括約筋は動眼神経の副交感線維が接続しています。一方、散瞳に関係する瞳孔散大筋は頚部の「上頚神経節」から交感神経線維がつながっています。

瞳孔括約筋と瞳孔散大筋の画像