眼精疲労と自律神経

当院は全国の医療機関の中でも早い時期から、目と自律神経の関連性に着目し、治療に取り組んでまいりました。眼精疲労は目の症状だけにとどまらず、頭痛や耳鳴り、めまい、不眠、吐き気、食欲不振、手足のしびれ、首肩の過緊張、動悸、微熱、全身倦怠、うつ症状などを引き起こす場合があります。 そのため、当院を受診される方の多くは、様々な病院に行っても辛い症状が改善しない経験を有しています。中には内科からメンタルクリニックを勧められ、睡眠薬や精神安定剤を処方されるケースも多々あります。

□眼科で疲れ目の目薬をもらっても・・・・・・
□整形外科でレントゲンやMRIをとっても・・
□ペインクリニックでブロック注射を受けても・
□マッサージ店や整骨院で施術を受けても・・・

そのような場合、当院が行っている「目と自律神経治療」「目を含めた総合治療」をお受けいただくと、良い体調を取り戻される患者様が少なくありません。 眼精疲労の蓄積により、疲労や痛みの悪循環が発生し、全身に様々な不快症状を生じることがありますが、多くの方が、「目」が原因であることに気が付いていないのです。以下、当院の治療経験から眼精疲労と自律神経失調症、特に眼交感神経亢進症について解説いたします。

◆目と自律神経系ネットワーク

私たちの目は近くを見る時、また遠くをみる時に自律神経による自動制御を受けています。また、視神経や網膜に酸素や栄養を供給する血管は、自律神経の働きにより拡張・収縮し、血流量が変化します。そのため、ストレスや痛みで交感神経が過度に亢進し続けると、視神経への血流量が減少し、緑内障などのリスクが増加するとも言われています。 さらに、目から入る視覚情報は脳を刺激し、概日リズムや大脳辺縁系の情動系統などに影響を与えます。それらがさらに、自律神経のコントロールに影響を与えます。目の不調が、全身の様々な不具合へ波及するのは、目が自律神経ネットワークの中核を担っているからです。

目と自律神経のつながり

目の副交感神経は脳神経の一部として、脳幹とつながっています。一方、眼の交感神経は、首につながっています。脳から出る副交感神経と、首から出る交感間神経がお互いに交通し、ネットワークを形成しています。次に、目の各器官と自律神経について詳しく見ていきましょう。

物を見る時の自律神経反応

遠くを見る時は交感神経系(眼交感神経ネットワーク)が働きます。逆に、近くを見る時は副交感神経系(眼副感神経ネットワーク)が働きます。 特に近くを見る時は副交感神経系が強く働きます。


目は近くの物に焦点を合わせる際、縮瞳(虹彩を絞る)、輻輳(両目を寄せる)、ピント調節(水晶体を厚くする)の3軸反応が同時に、かつ自動的に行われます。これは目のモーターシテムと呼ばれ副交感神経線維である動眼神経(Eye Motor Nerve)によるものです。視機能と自律神経について、もう少し詳しく見ていきましょう。

本来、自律神経は動物にも備わっているものです。肉食獣が狩りをするときは交感神経が優位になり、遥か遠くの獲物の動きを察知し、強靭なスピードで走る時も交感神経が活動します。

同様に、人間の目も遠くを見るときは交感神経が優位となり、近くを見るときは副交感神経が優位になります。ふと、視線を落として近くの物を見ると、なぜか心がホッとしますよね。

では、実際の仕組みを見ていきましょう。遠くを見るときは、目の中のレンズ(水晶体)が薄くなり無限遠方視(カメラでいう∞)の状態となります。この時は、視界を広げ、光を多く取り入れたいので瞳孔は散大します。かつて、人間も外敵から身を守るためには、交感神経を優位にして、遠くを見る必要があったからです。 ;

一方、近くを見るときは、リラックスした状態であることが多いため、副交感神経が優位になります。光を多く取り入れる必要がないため、瞳孔は縮小します。また、水晶体が厚くなると視界の周辺部が光の屈折率(収差)の関係で歪んでみえるようになります。これは脳にストレスを与えますので、自然に瞳孔が小さくなり、像が歪むのを防いでくれます。 (焦点深度の向上)

遠方視・・視界を広げたい(散瞳)←交感神経優位
近方視・・視界を狭めたい(縮瞳f)←副交感神経優位

ここまで話を進めていくと、現代社会においては、目の機能に「ある矛盾点」が出てきます。それは、パソコンの液晶画面と目の関係性です。 本来であれば、近くのものを見るとき、瞳孔は縮小しなければなりません。仕事モードでパソコンを見る状況では、体は交感神経優位になっています。いわば仕事も戦いです。

ですから、瞳孔が開いた状態で、近くのものを凝視し、モニターから発せられる強い光源に網膜が晒される訳ですから、脳に相当なストレスがかかっていることは間違いありません。

最近では、ゲームに熱中する若者の自律神経失調が問題となっています。慢性的な頭痛や倦怠感、不眠症など、症状は深刻です。これも、過剰な視覚的光源が脳や自律神経を刺激して起こる現代病だと言えます。

つまり、本来は、近くを見る際に視覚器は副交感神経が優位になるはずが、実際は緊張や興奮性の刺激で交感神経が優位になってしまう、ことが問題で、これが自律神経性の眼精疲労の原因となります。 遠くを見るときは、自然の景色を見てリッラクスする時というのは、いささか悲しい現実です。

涙と自律神経

副交感神経の働きで血管が拡張すると血流が増加し、涙の分泌量が増えます。これにより、涙は角膜に栄養を供給しますので疲労回復や組織修復にエネルギーを使用します。逆に、交感神経が亢進すると血管が縮小し、血流量が低下して涙液分泌が減少します。これにより、遠くが良く見える状態になり、積極的な活動体制になります。例えば、発表会などで人前に立つと、やたら目や口が乾き、自然と瞬目が多くなったりします。緊張して交感神経が亢進すると、涙は少なくなります。

瞼と自律神経

私たちは、朝目覚めて、まず初めに目を開けます。瞼を開けると上瞼にあるミューラー筋の受容器が刺激され、交感神経が働き出します。上瞼のミューラー筋は交感神経による制御を受けており、瞼から伸びた神経線維が首や肩につながています。瞼の刺激を起点に脳が覚醒し、交感神経が優位になります。そして、首や肩の筋肉をはじめとして、身体全体が活動状態になります。

瞼には、自分の意志で目を開けるための上眼瞼挙筋とは別に、ミューラー筋という筋肉が付属しています。この筋肉は、自律神経(交感神経)の働きで作用します。 ですから心身の活動状態が高まると、自然と人の目は大きくなります。本人が意識していなくても、周りから見ると目がギラギラしているなどの印象になります。逆に、リラックスしている時は瞼が少し下がるので、優しい感じの印象になるという訳です。 例えば、疲労により瞼が下がってくるにも関わらず、頑張って瞼を開けて見開いた状態を続けると過度に眼交感神経が亢進して、首や肩が凝ってしまたり、逆に眠れなくなってしまうことがあります。

眼圧と自律神経

眼圧は、次のように交感神経と副交感神経のバランスによて保たれています。
房水の生産/交感神経(水分を増やす・圧力を高める。)
房水の排出/副交感神経(水分を出す:圧力を弱める。)

眼交感神経亢進症

このようなことから、重度の眼精疲労の患者さんは、「眼交感神経亢進症」という状態である場合が少なくありません。眼交感神経亢進症の状態になると、疲労や痛みの悪循環に落ちることがあり、症状が一層深刻化してしまます。

交感神経優位=目は活動にエネルギーを使います。(ストレス増加)
副交感神経優位=目は回復にエネルギーを使います。(ストレス軽減)

疲労・痛みの悪循環

目のストレスは、交感神経の過度の亢進を引き起こし、感覚神経(三叉神経系)を暴走させ、痛みの悪循環を引き起こすことがあります。感覚過敏や痛みは、さらに交感神経を亢進させ、筋緊張や血流収縮を引き起こし、疲労回復を延滞させます。 その結果、近くを見る際に働くはずの眼副交感系のネットワークが上手く機能しなくなり、目が乾く、ピントが合わない、まぶしい、物がブレて見える、まぶたが下がってくる、などの症状が出る場合があります。

自律神経のまとめ

私たちが生きていくうえで必要な呼吸、血液循環、消化、代謝、内分泌、体温調節、生殖、排尿などの機能は、無意識のうちに神経によって調節されています。このような生体の自律機能は自律神経(交感神経・副交感神経)の働きによって維持されています。

さて、私たちは自律神経という言葉を普段何気なく使っていますが、自律神経とはどの様なものなのでしょうか。 人は、何らかの原因で自律神経のバランスが崩れると、検査では異常が見られない不定愁訴(明らかな原因が分からない身体の不調)を生じることがあります。

自律神経とは、体内の臓器の働きやホルモンの分泌など、自分の意思とは別に自動的に働く神経のことです。例えば、運動すると心拍数が上昇し汗が出るなど、自律神経の働きは人間が生きていく上で欠くことはできないものです。

交感神経と副交感神経について

自律神経には、交感神経(活動する神経)と副交感神経(休息する神経)の二つがあり、必要に応じて自動的に切りかわっています。朝起きて仕事や家事を行う時は交感神経が優位になり心身は活発な状態になります。また夜眠る時になると副交感神経が優位になり体は休まろうとします。 交感神経は、脊髄(背骨)の背中から腰にかけて神経の中継点があります。また、副交感神経は後頭部下縁と仙骨部に神経の中継点があります。それぞれの神経は、臓器や皮膚、血管に分布して互いに亢進と抑制というバランスを取り合っています。

交感神経と自律神経の相関図

一方、日中は重だるい状態が続き夜になると、目がさえて眠れないなどの症状は、交感神経と副交感神経の切り替わりが上手くいかず、自律神経失調の状態です。また、自律神経は生理活動をつかさどるだけでなく、心の動きと密接に関係しています。 例えば悲しい時に涙が出たり、不安を感じた時に心臓がドキドキするのも、自律神経の働きによるものです。さらに、自律神経は、ホルモン分泌とも密接に関係しており、女性は生理不順、ひどい生理痛、不妊などの問題が生じやすく、男性はEDなど男性らしさが減退するという問題も自律神経が関与しています。

自律神経失調症の症状

不眠、頭痛、めまい、動悸、息切れ、息苦しさ、微熱、発汗、肩こり、全身倦怠感、慢性的な疲労感、食欲不振、体重減少、胃の不調、腹痛、不整脈、腰痛、下痢、便秘、むくみ、手足の冷えなど、多種多様です。 以下は交感神経・副交感神経による身体的な作用です。