近年、マイボーム腺機能不全型ドライアイ(Meibomian Gland Dysfunction)の存在が注目されています。当院では温罨法(湿熱ホットパック)と目の周り・まぶたへの鍼治療を行うことで、マイボーム腺機能不全型ドライアイの改善が得られています。

マイボーム腺機能不全型ドライアイ

ドライアイと眼精疲労

当院は、日常的に起こるドライアイ(渇き目)から、目を開けているのが辛いほどの重症ドライアイ原因不明のドライアイまで、ドライアイに対する鍼灸治療を行っています。眼精疲労にドライアイが伴っている場合が多いです。

ドライアイに対する専門的な鍼治療

鍼の刺激により、目の周りのこわばりや緊張を緩和することで、涙腺への血流を改善し、涙液分泌を促進する治療を行っています。同時に、首や肩、背中など身体の様々なツボを刺激することで、自律神経を整える治療を行っています。

ドライアイは、一見、身体には異常がないように見えるため、そのつらさを周囲に理解して、もらえない場合が少なくありません。

眼科での治療との併用による鍼治療

ドライアイ用の点眼液や涙点プラグによって、目の乾きは改善するものの、ドライアイが根本的に良くなる訳ではありません。当院では、眼科的な治療と併用して、鍼灸治療を受けて頂ける体制を整えています。

担当鍼灸師、自らが重症なドライアイを克服

院長の小宮は涙液分泌が極度に減少する重症ドライアイです。そのような立場から、ドライアイの患者さんに対して、その辛い症状を緩和する専門的な鍼治療を行っております。

実際には、三又神経への刺激や、院長の長年にわたる研究によって見出した涙液分泌のツボなどを中心に治療を行っていきます。

府胃液分泌を促進するドライアイのツボの場所イラスト

ドライアイと眼精疲労を同時に治療

ドライアイによって生じる目の周りの腫れに対しても、血行を促進することで、改善を期待できます。また、ドライアイによって生じる眼精疲労や全身倦怠感、首・肩のこり解消にも効果を期待できます。

また、ドライアイが筋緊張(身体への過渡なストレス)や自律神経失調症などから誘発される場合があり、急な職場移動や、試験勉強などを発端として起こることがあるとされています。

心身の総合ケアでドライアイ改善へ

このような場合は、鍼治療で心身の緊張を緩和させて自律神経の働きを整えることで、ドライアイを緩和させることが期待できます。

ドライアイ治療の費用

  • 目の専門鍼治療
  • 1回 8,500円
  • 初回は別途初診料2,500円
  • 治療は予約制です。
  • TEL 03-5980-7511

当院で多く治療しているドライアイの患者さん

当院では、シェーグレン症候群眼瞼痙攣、GVHDの患者さん、長時間のPC作業・スマホの凝視によるドライアイの患者さんが多いです。

また、ドライアイは生活環境によって引き起こされることがあり、例えばシックハウス症候群オフィスの過度な乾燥環境でも起こることがあります。

ドライアイは、女性特有のPMSホルモンバランスの失調、精神的なストレスでも起こることがあり、自律神経と深い関係性を有しています。

さらに、薬の副反応によって涙液分泌が減少する場合もあります。例えば、抗コリン作用のある薬は、副交感神経の神経受容が減少することがあり、その結果、目が乾いたり、口腔や鼻腔の粘膜が乾くといった症状が出る場合があります。

以下、涙の話です。

涙の分泌は、時代背景、生活環境や生活習慣、また心身状態に強く影響を受けています。まずは涙に関する基礎的なお話です。

涙と涙腺

身体の60%は水分で出来ていると言われます。唾液や胃液と同様に、涙液は腺細胞から分泌される体液の一つです。涙腺はスポンジのように、涙を貯めており、様々な刺激に応じて涙を排出します。涙腺には血管や神経がつながっています。

涙腺と涙腺動脈と涙腺神経の医学イラスト

涙と血管

涙腺には内頸動脈(首横の太い血管)から分岐した眼動脈がさらに枝分した涙腺動脈がつながっています。

涙と神経

涙腺(涙の生成器官)には三又神経と自律神経(交感神経・副交感神経)がつながっており、様々な情報が神経によって伝達され、涙の排出量や成分がコントロールされています。

涙の構造

涙の層の厚さは30ミクロン(0.03mm)ほどで、油層、水層、ムチン層の三層から成っています。油層は瞼のマイボー腺から分泌され、涙の蒸発を防ぎます。水層は涙腺から分泌されるサラサラした液体で、タンパク質や酵素、ビタミンを含んでいます。ムチン層は角結膜上の胚細胞から分泌される粘り気のある液体で涙を角膜に留める役割をはたしています。

涙の成分

涙液は、目の上外側にある主涙腺で「血液」を源に生成されます。涙の主成分は「血清」です。血清とは、血液から赤血球や血小板などの血球成分を除いた黄色透明な成分のことです。

涙腺で血液から生成された血清成分は涙となって、眼表面を栄養・殺菌します。実際に涙には、ラクトフェリンなどの多機能蛋白やビタミンAなどの細胞活性化因子、また抗菌作用のあるリゾチームやIgA(免疫グロブリン)などを含んでいます。

涙の種類

涙には基礎分泌、反射性分泌、情動性分泌の三つがあります。基礎分泌は目の表面が乾燥しないように常に微量に排出されている涙のことですが、最近では瞬きに伴う反射性分泌の一種とされています。

基礎分泌

涙は涙腺から常時分泌されており、瞬目によって運ばれ、目の表面を潤し鼻へと流れていきます。また、基礎分泌は瞬きによって排出が促されます。

例えば、コンタクトレンズの長期使用では目の表面の感覚が鈍麻することがあり目が乾きやすくなると言われています。また、精神的に瞬きが不規則になるメージュ症候群などでも目が乾燥する場合があります。

反射性分泌

目にゴミが入ったり、タマネギを切った刺激などで涙が出ます。そのほか、ぎゅっと目を閉じたり、くしゃみをしたり、あくびをした場合など涙腺が刺激を受け涙は排出されます。

また、笑って顔の筋肉を動かしたり、物を食べて顎の筋肉を動かしたり、辛い物を食べても涙腺が刺激され涙が出ます。さらに、足をぶつけたときなどに起こる痛みの感覚刺激でも涙が分泌されることがあります。これは反射性分泌といって、涙腺につながる三又神経が刺激を受けることで起こる涙液分泌です。

情動性分泌

感情と涙がリンクしているのは皆様が良く経験されていることだと思います。怒った時は交感神経が強く作用し塩分の多い粘質な涙が出やすいようです。一方、悲しい時にでる涙はサラサラしており、抗ストレスホルモンを多く含んでいるとされています。そのため、泣くとスッキリします。

涙と自律神経

大きな感情の高ぶりによって出る情動性の涙は脳の興奮が関与します。一方で、仕事をしている状態、家でリラックスしている状態など、日常的な活動レベルの高い・低いでも、涙の量は変化しており、これにも自律神経が大きく関与しています。

涙と交感神経

交換神経(活動)が優位になると、涙腺動脈などの末梢血管は収縮し、涙腺への血流は低下し、涙液分泌量は低下します。加えて心身が緊張すると目を大きく見開くことも多く、瞬きも浅く少なくなるので目はより乾きやすくなります。

涙と副交感神経

副交感神経優位(休息)な状態では、涙腺動脈は拡張するので涙液分泌量は多くなります。目の周りの緊張も少ないので、瞬きも深く多くなり、涙で目がよく潤うようになります。

涙とホルモンバランス

涙液の分泌量はホルモンバランスの影響を受けます。女性では生理前に目が乾くという方が多いようです。また、妊娠や出産、授乳などで涙液量が変化する場合があります。特に、育児中は睡眠不足になりがちなので、ドライアイが悪化する場合があります。

涙と睡眠

涙腺は身体の一部であるため、活動と休息をバランス良く保つ必要があります。また、涙を生産したり、スポンジのように涙を蓄えたり、排出するにはエネルギーを使います。

睡眠中は閉じた瞼によって眼球は保護されますので、涙を積極的に分泌する必要はありません。当然、涙液分泌は休止し、涙を蓄えるモードになります。そして、脳が覚醒し、身体の活動レベルが上がるとともに、涙腺は涙液の分泌量を増やしていきます。

夜寝ている間は、涙が極端に少なくなります。ドライアイの人は、寝起きは目が乾いていることがあります。

朝の準備をしたり、朝食を食べたりしている内に、脳が活性化し、様々な刺激が涙腺に伝わり、身体の血流も増加するため涙の分泌は増えていきます。

一方、交感神経は闘争の神経でもあるので、交感神経優位の状態が続くと、心身は疲労し休息が必要な状態となります。そのため、交感神経優位の状態が長く続くと涙液分泌も減少してきます。

涙腺には、三又神経、交感神経のほかに、副交感神経も接続していますので、身体活動がピークを越えると副交感神経が優位になり、目の細胞に酸素や栄養を送るために涙液分泌量が増加します。
食事をとったり、仮眠をとったり、お風呂にゆっくり使ったり、リラックスすることで、涙液分泌量が増加します。

涙と脳

なぜ、人は眠る必要があるのか?これは生命の神秘にもつながる話です。特に脳の機能を維持するには睡眠を欠くことはできません。

人は覚醒・活動時、多くのエネルギー(ATPや酸素等)を必要とします。エネルギーを使えば当然、その代謝産物(老廃物)が出ます。ですから、活動し続けるとエネルギーが枯渇し、老怪物が体内に充満していきます。一方、睡眠中は、老廃物をクリーンにし、エネルギーの源を生産し蓄える作業が体の中で行われます。ケガなどでダメージを受けた細胞を修復する作業も睡眠中に活発に行われます。

目が乾く生活習慣の例

朝食を取らずに出勤し、乾燥したオフィスで休息もなく長時間、パソコン作業を行い、心身ともに疲れ果てる、仕事や家庭のストレスで眠りが浅い、そんな毎日を送っていると、目はどんどん乾いてしまします。さらに、通勤時間や昼休み、仕事後もスマホを見ているという生活では、目が休まる機会がなくなってしまいます。

その他の目が渇く習慣

・コンタクトレンズの長時間使用
・睡眠不足や昼夜逆転の生活
・生理前症候群など女性ホルモンの影響
・目が大きいなど涙の蒸発量の影響
・ダイエットなどの食事制限

涙と精神薬

精神科系の薬の中には、涙の分泌が抑制される作用を持つものがあります。これは主に抗コリン作用によるもので、涙や唾液の分泌が少なくなる場合があります。

涙と眼精疲労

ドライアイの人の60%は眼精疲労があり、眼精疲労の人の60%はドライアイがある、と言われています。ドライアイと眼精疲労、どちらが先かは解りかねますが、「目の乾き」と「目の疲れ」は密接に関係しています。

日常的に目が乾いていると

  • ギューという強い瞬目が習慣化
  • 乾燥性の痛みで目の周りがこわばる
  • 視界がかすむので目をしかめる。
  • 乾燥で目に熱がこもる
  • 首や肩がこる
  • 頭痛が起こる
  • 背中が張る

涙と加湿器

目の渇きには室内の乾燥が大敵です。加湿器の設置はドライアイに良いと思います。加湿器には「スチーム式」「気化式」「ハイブリット式」などがあります。これは個人的な経験ですが、水分を多く含んだ蒸気が出るスチーム式の加湿器が良いと思います。ただ、スチーム式は蒸気出口が熱いので、火傷などの注意が必要です。

ご参考に(眼科における一般的なドライアイの検査と治療)

・シルマー試験
涙の分泌量を測定する検査です。メモリの付いた紙を目じりに5分間はさみ、試験紙がぬれる量を量ります。通常10ミリ以下でドライアイを疑います。

・BUT検査
BUTとはBrake up Tear の略で、涙の蒸発す速さを測定します。シルマー試験において涙の分泌量が正常であっても、涙の蒸発速度が速い場合はドライアイを疑います。

・角結膜の傷の有無
ドライアイの症状が強いと、黒目や白目に慢性的に傷ができる場合があります。

・人工涙液
目の表面が乾くのを防ぐために、涙の成分に近い点眼液を差すという治療です。頻繁に点眼必要な場合は防腐剤抜きの点眼薬を用いることが推奨されています。

・ヒアルロン酸点眼液
粘伸性の高いヒアルロン酸を含有した点眼薬です。

・新たな点眼薬

ムコスタやジクアスなど、ムチンをカバーするの点眼薬が新たに出ています。

・自己血清点眼
重症ドライアイに対しては、自己の血液から血清成分を抽出して点眼薬として使用する自己血清点眼による治療が一部の医療機関で行われています。

・眼軟膏
夜寝ている間は涙の分泌量が減るため、軟膏を眼内に塗布して目の渇きを防ぐ方法です。

・涙点プラグ
涙が排出される涙点(鼻側に4か所)をシリコン製、またはコラーゲン製のプラグで塞ぐ方法です。涙の排出を抑えることで目が潤うようになります。

ドライアイを来すシェーグレン症候群

シェーグレン症候群は、膠原病(自己免疫疾患)の一種で、涙腺や唾液腺に炎症が起きます。ドライアイ、ドライマウスの症状が一般的ですが、中でもドライアイは目の痛みや眼精疲労を引き起こす場合があります。当院はドライアイの鍼治療を得意としています。

その他、ドライアイを生じる疾患には、甲状腺機能の異常、骨髄移植後GVHDや眼類天疱瘡、ステーブンス・ジョンソン症候群などがあり、いずれも重症なドライアイを来すことがあります。