(50代女性 Fさん)

30代から眼精疲労の症状はあったものの、見え方には不便がなかったので、特に眼科で精密検査を受けることもなく過ごしていたFさん。40歳の時に「ものもらい」の治療で受診した眼科で緑内障との診断を受けました。それは、思いもよらないことでした。そして、視野検査を受けた結果、左目の視野の半分が欠けていました。そのとき眼圧は17mmHgと正常範囲でしたが、正常眼圧緑内障として、すぐに点眼薬での治療が始まりました。このように、緑内障は、かなり視野欠損が進行した段階でも気づきにくいということがありますので注意が必要です。

Fさんは、点眼開始から5年を経て、さらに視野欠損が進んだため、眼圧を下げる手術を受けました。しかし、それでも眼圧は安定しませんでした。

Fさんが当院を初めて受診した時のことは、いまでもはっきり覚えています。左目が真っ赤に腫れ、瞳孔は瞼でふさがった状態でした。緑内障の点眼液には、炎症成分が含まれているものもあり、それらを4種類、1日合計12回ほど点眼するという状況でした。さらに緑内障の目薬による炎症を抑えるためにステロイドの点眼薬とアレルギーの点眼薬も併用されていました。目が痛いので鎮痛剤も常用されているとのことでした。

確かに眼圧を下げないと視野欠損が進行してしまうかもしれません。しかし、点眼薬の刺激で、目が腫れ、痛みのため家で寝込んでいるという状態でした。主治医も、このような状況に頭を悩ませていたそうで、何か他に良い方法はないかと、Fさんに当院を紹介してくれたのです。

当院で2週間に1回、1年ほど鍼治療を継続した結果、緑内障の点眼薬を4種類から2種類まで減らすことができ、点眼薬による瞼や角膜の炎症を軽減することができました。鍼治療開始から3年ほど経過しましたが、主治医より今のところ視野欠損の進行は予防できているとのことでした。

緑内障と鍼治療

当院では様々な眼疾患に対する鍼治療を行っていますのが、その中で最も多いのが緑内障の患者さんです。当院では主に2つの目的に応じて、患者さん一人一人に適した治療を行っています。

1、緑内障疑いの方

健康診断や眼科検診にて「視神経陥凹」の疑いがあり、特に点眼治療の対象とはならないが、経過観察が必要と言われている方。いわゆる緑内障の疑い、という段階の方です。

近年の眼科医療において、緑内障はOCT検査の普及により、超早期の段階で診断されるようなってきています。また強度近視であったり、緑内障の家族歴があったりすると、緑内障の発症リスクという観点から経過観察が行われる場合も多くなってきました。当院では、このような場合に、眼精疲労治療や心身のストレスを緩和する治療など、発症リスクの軽減をような治療を行っています。

2、点眼治療だけでは眼圧が安定しない方

すでに緑内障の診断を受けており継続的な治療を受けているが、視野の欠損に進行が見られる方。緑内障の点眼薬の効き目がイマイチで、眼圧をもう少し下げたい方。

緑内障の点眼薬はプロスタグランジン製剤やβ遮断薬など、様々な種類がありますが、刺激も強いので、点眼薬の種類や回数が増えると、角膜や瞼に炎症を起こすなどの問題を生じることがあります。また、点眼薬を刺し続けても、緩やかに進行していまうケースもありますので、眼圧を安定させ、長期的な進行を予防することが大切です。もうこれ以上点眼液を増やせないと医師に言われた方で、点眼療法に鍼治療を併用することで、今まで不安定だった眼圧が、長期的な安定を得られている患者さんもおります。